ネオホワイト
ネオホワイトは冷水と同じ供給温度域で潜熱量と融点の調整も可能な流動性に優れた冷熱媒体である。このネオホワイトをビル冷房の冷熱蓄熱および冷熱搬送媒体として用いることにより、冷房用エネルギー消費量の削減ひいてはCO2排出量の低減を図ることが可能となる。
包接水和物(Clathrate Hydrate以下、「水和物」)は水和剤の周りを水分子が籠状に囲んだ状態の固体の化合物である。水和物は、水和剤を水に溶解した水溶液の温度を下げていくことにより生成する。
例えば、写真1に示すような微細な水和物の柱状結晶の形で生成する。「ネオホワイト」とは、水和物の微細な固体粒子と水溶液からなる写真2に示すような流動性のある固液混相流体であり、従来の冷水に代えて冷熱の搬送/蓄熱媒体として使用することができる。
ネオホワイトの温度は冷水と同じ7℃程度であるため、ネオホワイト製造時のエネルギーは同じ潜熱蓄熱である氷(0℃)より少なくて済む。また、冷水と比べると蓄熱量が熱量に比例して増やすことができるので夜間電力の利用を増やす効果がある。
![]() 写真1 水和物の微粒子(顕微鏡写真) |
![]() 写真2 ネオホワイト |
水和物の熱物性などは水和剤の種類、水分子の数、生成時の温度、水和剤濃度などにより大きく異なる。ここで述べる水和物とそのシステムでは第四級アンモニウム塩(臭化テトラnブチルアンモニウム:TBAB)を水和剤として生成する準包接水和物を用いている。
TBABを水に溶かした水溶液を流動させながら冷却することによって水和物の微細な結晶が水溶液中に生成される。水和物が生成し始めるときの温度と水溶液の濃度の関係(水和物の生成線)を図1に示す。
この図から容器中のTBAB水溶液の初期濃度によっておよそ12℃以下の温度域で水和物を生成し始めるように温度調整できることがわかる。例えば、容器内のTBABの初期濃度20%、温度12℃から冷却された場合を考える。図中の矢印に示す12℃では水溶液の状態であり、水溶液が冷却されて温度が低下していくと、本来は水和物が生成する温度よりも低い温度で水和物の生成がない水溶液状態(過冷却状態)になる。過冷却が解除されて水和物が生成し始めると水和物の生成熱によって約8℃程度まで温度が上昇し、さらに冷却を継続することで水和物の生成も続く。
TBABが水と反応して水和物の生成が続くとき、水溶液側のTBABは固体の水和物結晶の側に移る。このため、固液混相流体であるネオホワイトの液側のTBAB濃度が低下する。容器内のネオホワイトは水和物の生成が進むにつれて水溶液のTBAB濃度が低下し、水和物の生成線に沿って温度が下がる。以上のように、氷が0℃で潜熱を持つのに対してTBAB水和物は濃度を設定することにより空調用に使われる冷水と同じ7℃程度で水和物の潜熱を持つように調整できる。
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| 図1 水和物の生成開始温度と水溶液濃度の関係 |
水和物が生成するときの潜熱(発生熱)は水和数により異なるがTBABの水和物の潜熱量は193~206kJ/kgである2),3)。ネオホワイトは、水和物の生成が始まった後においても水和物の生成量に応じてネオホワイトの温度が低下する。このため、水和物および母液の顕熱と相変化による潜熱の両方がネオホワイトの比エンタルピーの変化量に加わることになる。
図2は水溶液濃度が20%の場合について、温度と比エンタルピの関係の一例を示す。濃度が20%の水溶液の状態を12℃から冷却し、温度を下げていくと平衡状態では8℃で水和物が生成し始める。水溶液中に水和物が生成すると、比エンタルピが増加する。ネオホワイトに求められる熱密度(比エンタルピ)は、その供給温度と還り温度の利用温度差において所定熱密度になるよう水和物の量を生成するよう初期濃度を設定する。水和物が生成し始める前までは水溶液の状態であるため水とほぼ同じ比熱である。また、水和物生成後の温度と比エンタルピの関係から、ネオホワイトの比エンタルピーが温度低下に伴って増加するので水の5倍程度の比熱を持つ媒体とも言える。
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| 図2 水溶液の温度と比エンタルピの関係の例 |
初期濃度と供給温度の設定条件によってネオホワイトの密度は初期濃度の水溶液より高密度になる。ネオホワイトを下層、水溶液を上層にした密度成層が実現できる。ネオホワイト製造装置から送られてくるスラリを貯槽底部から充填し、同時に水溶液を貯相上部から取り出して製造装置に送る。貯槽においてネオホワイトが成層化することで、蓄熱槽内に充填したネオホワイトの利用効率は混合貯蔵と比べて大幅に高くできる。
冷凍機は定格負荷で運転する時間は年間を通じて僅かである。負荷によって冷凍機のCOPが変動するため、非蓄熱システムでは定格負荷の50%程度の部分負荷でCOPが最も高くなるよう設定された冷凍機がある。蓄熱をシステムにいれた場合、蓄熱量を増やすことのできるネオホワイトは季節や一日の負荷変動に関わらず最大負荷でCOPを最大に設定した冷凍機を導入して長時間の定格運転が可能になる。そのため、1日および年間を通して高効率冷凍機の性能を最大限引き出すことができるのでシステムの省エネルギーに寄与する。
また、冷凍機はその蒸発温度を上げるとCOPが高くなり、凝縮温度を低くすることでもCOPが高くなる。ネオホワイトを製造するのに必要な温度は氷を作る温度(蒸発温度)より高くなる。また、夜間の冷却塔の冷却温度(凝縮温度)が昼間の冷却温度より低くなることから、ネオホワイトの製造では氷製造と比べて冷凍機のエネルギー消費が低減できる。また、このような蓄熱システムは、電力負荷平準化と安価な夜間電力の利用による電気料金低減、冷凍機設備容量低減による契約電力削減、冷凍機、補機の定格運転化などのメリットがある。
TBAB水和物は水溶液との比重差が小さく、また微細粒子同士の凝集性もなく分散性が優れており、ネオホワイトは水仕様のポンプで配管や熱交換器等にそのまま搬送して被冷却媒体と熱交換することができる。
ネオホワイトは水和物の割合が多いほど大きな熱密度を持つことになり、同じ供給熱量に対して流量が少なくてよいが、粘性が増加する。
図3にネオホワイトを適用した空調システムの配管系(口径100A)において、水溶液を流した場合とネオホワイトを流したときのヘッダー間圧力損失の実測例を示す。同じ配管で同じ流量を供給する場合、粘度の大きいネオホワイトの圧力損失は大きいが、同じ熱量で比較するとネオホワイトの流量が半減するため、圧力損失も半減する。ヘッダー間に必要な搬送動力は流量に圧力損失を掛けたものなので、およそ1/4に低下することが分かる。
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図3 配管圧力損失の実測例 冷水の場合、熱交換器における交換熱量が流量の低下に伴って減少する。ネオホワイトの場合、空気や水の被冷却媒体との対数温度差が大きくなることと、水和物の伝熱管内における伝熱促進効果がある。そのためネオホワイトに含まれる水和物の割合によるが、ネオホワイトと被冷却媒体との交換熱量は、同じ熱量を同じ温度で供給する冷水と比べて、同等の熱量を交換することもできる。 また、氷蓄熱の場合と比べると、蓄熱槽から大量のネオホワイトを取り出して熱交換器に直接供給することができるので適切な熱交換器を用いることによって大容量の負荷にも対応できる。 |
| 図3 配管圧力損失の実測例 |
ネオホワイトは新築や既築ビル等のセントラル空調システムに対する新しい省エネルギー技術、電力の負荷平準化技術として期待されている。当社は、ネオホワイトを冷熱の蓄熱と搬送媒体として用いたセントラル空調システムに、高効率電動冷凍機と組み合わせることにより、総合ビルにおいて大きな省エネルギー性があることを確認できた。現在、ネオホワイト空調システムの適用事例は工場事務所や地下街など国内外で増えつつある。
ネオホワイト蓄熱は、水蓄熱よりは大容量の夜間電力の利用、氷蓄熱よりは省エネルギー性が高い蓄熱システムと位置づけられる。ネオホワイトを広く普及していくことで、建築物等の省エネルギーの推進、地球温暖化防止に貢献していきたいと考える。
なお、本技術は、旧通産省の工業技術院のナショナルプロジェクト「広域エネルギー利用ネットワークシステム」における研究開発に始まり、NEDO技術開発機構のエネルギー使用合理化技術戦略的開発において共同開発されたものである。これまで多くの関係者のご支援を頂いてきたことに対し、ここに深く謝意を表するものである。