プロジェクトストーリー06 下水道普及率2.5% 世界遺産都市 スリランカ・キャンディを救え! 下水処理施設を受注したプロフェッショナルたち

チームを待ち受ける試練の数々

アジアをはじめとした新興国では、急速な都市化が進む一方、インフラ整備が遅れており、生活環境への悪化が問題となっています。特に、長年にわたって紛争の影響により開発が遅れるスリランカでは、市民の生活排水が十分に処理されないまま河川や湖に直接流されており、水質環境の改善は喫緊の課題だ。この状況を救うために立ち上がったのが、アクアソリューション本部海外事業部。現在もスリランカでチームを率いるプロジェクトマネジャーの加古に話を聞いた。
「プロジェクトが始まったのは2009年。当社が包括連携協定を結ぶ横浜市は、公民連携による国際技術協力(Y−PORT事業)に取り組んでおり、その一環でキャンディ市長をはじめとした政府関係者に対して、水処理技術・下水道運営の紹介をしてもらいながら営業活動を展開してきました。施設運営のノウハウを活用し海外への普及を狙う横浜市と、インフラ整備に関するノウハウ・技術をアジアへ展開させたいという当社の思惑が一致し公民連携によるプロジェクトがスタートしました」。
スリランカにとっても本格的な下水処理施設を建設した前例はほとんどなく、当社にとっても、20年前に同国コロンボ港の海底送油管の敷設工事に携わって以来のスリランカでのプラント建設。受注しても難しいプロジェクトになることが予想された。
2010年9月、円借款を行うJICAより正式公募の案内があり、日本を含めて、インド、韓国、中国から総勢17社が応札に名乗りを上げた。

プロジェクトを強力に推進させる2人のプロフェッショナル

2011年3月、加古は見積作業のため現地へ飛ぶ。初めて訪れたスリランカで目にしたものは衝撃だった。
「急激な経済発展と環境問題は密接な関係にあり、マハウェリ川をはじめとした同国の主要水源の水質汚染は深刻でした。このまま未処理の生活排水が過剰に放流され続ければ、生態系に被害を及ぼす危険性がある。何としてでも下水処理施設を建設して、主要水源である河川の水質改善に貢献したい、そして、より安心、安全で快適な生活を提供したいという使命感が高まりました」。
現地の情報収集で劣勢に立たされた加古を救うために、一役買おうと立ち上がったプロフェッショナルがいる。
それは、入札にあたって現地の調査から業者への見積手配を担当した宮澤である。彼こそが、20年前のコロンボ港海底送油管の敷設工事に携わった、スリランカを知り尽くした数少ない社員である。彼の加入がプロジェクトを大きく前進させた。
「スリランカは25年間も内戦が続いていた国。受注できたとしても、確実に工事を行えるかどうかが焦点でした。海外プロジェクトを成功させるカギは、いかに現地の最新情報を正しく、かつスピーディーに取得し計画に反映できるかどうかにかかっています。当社はスリランカに営業拠点を置いていないため、自分たちで、現地の資材の価格水準や入手経路、サブコン業者の設備・技術レベル、生活環境まできめ細かく情報を集める必要があったのです」。
ここで宮澤の多岐にわたる人脈が功を奏する。現地のサブコン業者や現地スタッフ、スリランカに拠点を持つ日系業者、プロジェクト経験者…。宮澤のスリランカ発展への思いに応えるかのように、優秀な現地の業者たちが貴重な情報を提供し、プロジェクトへの協力を約束してくれた。培った人脈の幅広さと、スリランカでプロジェクトをしていた経歴が、地元の方々の信頼を得ることにつながったのだ。
入札資料を作成するなかで、宮澤と共に加古を支えたもう一人のプロフェッショナルがいる。営業担当のアクアソリューション本部海外事業部・営業部の臼井だ。 「通常の競争入札では、クライアントが要求する仕様書に基づき、価格と施設・設備・技術・実績といった複数の要素を総合的に評価し落札者を決まります。特に途上国のプロジェクトでは、日本で使われている汎用的な仕様を提案するだけではうまくいきません。その国のスタイルにあった仕様やコストをしっかりと見極め、あらゆるリスクケースを想定し、細心の注意を払い提案書を作成することが重要でした。次々と入ってくる情報を分析しながら、チームは連日深夜までコストとリスクヘッジのバランス、入札戦略について検討を重ね、提案書を作り上げていきました」。

長引く技術評価と予想しなかった結末

本プロジェクトには数多くの事業者が関わっており、事業者ごとに契約書を交わさなければならない。また、契約書の文言の読み方次第で捉え方は変わるため、慎公募から2年以上経った2012年12月、やっとの思いで完成までたどりついた提案書を携え、入札を終えた加古たちを待っていたのは、1年以上にも渡る「技術評価」だった。クライアントが求める技術水準は想定以上に高く、技術評価の過程で競合他社が不十分な資料を理由に失格になっていく中、加古たちは最大限、クライアントの要求に答えようとした。
「入札後もクライアントからは厳しい指摘があり、何度も「失注」という言葉が脳裏をよぎりましたが、技術提案書の問題点を洗い直し、修正と推敲を重ね国内トップシェアを誇る弊社の『プロペラオキシデーションディッチシステム』を使った下水処理施設の価値をいかに理解してもらうかを考えていました。そして、プラント運営や維持管理がシンプルに行えること、そしてスリランカが負担するランニングコストを削減できるメリットについて何度も説明を行いました。プロジェクトを成功させることにより、スリランカの発展に貢献したいという当社の姿勢が、最終的には評価されたのではないかと思います」。
入札から1年半が経過しようとしていた2014年8月、ライバルであった韓国のエンジニアリング会社が「資料不十分」により失格となり、当社の1社開札としてプロジェクトの受注が決定した。宮澤が担当した海底送油管の敷設工事から20年、自分たちを信じて戦い続けたチームが、再びスリランカへの道を切り開いた。契約締結に携わった臼井は、当時の感情をこう語る。
「この国を良くしたいという強い気持ちを持って、メンバー全員で作り上げた提案。他者に負けるはずがないという思いがありました。公表予定日を過ぎても発表がなされず、諦めかけたこともありましたが、実際に受注が決まった際は、5年間の努力が実ったという充実感でホッとしました。また、それと同時に、ここはあくまでもプロジェクトのスタート地点。しっかりと施設を建設し、水質改善というゴールに結び付けなくてはという責任感を感じていました」。

「生活基盤の構築」を超えた海外プロジェクトの役割

当社が目指すのは、新興国の「生活基盤の構築」だけに留まらない。インフラ整備を通して、新興国が抱える様々な環境問題に立ち向かい、経済成長を支えるためには、その国自らの「自主性」を後押ししなければならない。
つまり、当社における海外プロジェクトの役割は施設を建設することにとどまらず、現地の人々の暮らしを考慮した施設を設計・建設すること、そして現地スタッフの雇用を通して施設の「現地化」を行うことにある。加古はフィリピン人スタッフと共に事務所を立ち上げ、スリランカ人エンジニアの採用活動を行うなど、2018年12月の竣工に向けてプロジェクトの現地化を進めている。
「スタッフ同士の軋轢や文化の違いに翻弄され、時には互いに衝突することもありますが、お互いのバックグラウンドを理解しようとする姿勢が、現地化を推進する重要なファクターになります。私たちのチームでは、多国籍のスタッフが、みな同じ釜の食事を、同じ場所で共に食べ、長い時間を共に過ごしています。仕事中だけでなく仕事後も、苦楽を共にすることで生まれる連帯感こそが、チームを強くするのです。その一方で、スタッフに近い分「なれ合い」になってしまい、緊張感が薄れ工期の遅れにつながり、そのまま工事期間の圧縮につながる危険性もあります。現地スタッフにはあらかじめ先回りをして作業の進捗を確認し、その上で作業に遅れがある場合は、なぜ作業が遅れているのか理由を聞くなど、きめ細やかなスタッフマネジメントが求められます。言葉や文化の壁はありますが、相手の立場や主張を理解し、私たちが目指すべき方向にスタッフのベクトルを合わせることがプロジェクトマネジャーの重要なミッション。そのためには根気強く説明する忍耐力や、相手の意見を聞き入れる懐の深さを持つことが必要だと実感しています」。
インド、スリランカ、香港、シンガポール、マレーシア、シンガポール、ベトナムと海外を渡り歩いてきた宮澤も、現地化のキーワードとして、加古と同じように「チームとしての一体感」を挙げる。
「チームとして一つになる、その一体感を持てるかどうかが、海外プロジェクトを成功させるために解決しなければならない課題です。どんなに日本の技術が優れていたとしても、日本の基準で物事を判断してしまうと、それは現地の人々に考えを押しつけることになります。現地の物事の捉え方や考え方、仕事の進め方を理解するといった『コミュニケーション』をいかに早くできるか、これが現地化を進めるうえで重要なこと。これはスタッフ、クライアントを問わず共通して言えることでしょう」。
最後に、プロジェクトマネジャーとして、20年ぶりのスリランカ進出を果たした加古に、今後の展望を聞いた。
「本プロジェクトは、約7万人分の下水処理を可能にし、スリランカ国内でも環境改善プロジェクトの目玉事業として位置づけられるほど注目を集めています。それでも、内戦の爪痕は大きく、インフラ整備が喫緊の課題となっているスリランカにおいて、橋梁や廃棄物発電プラントなど幅広い商品技術を提供し、スリランカの経済発展とプロジェクトの現地化を実現することが私の夢です」。
加古の言葉には、プロジェクトの現地化を通して、下水処理施設を建設するという決意と覚悟がにじみ出ていた。アジア各国へのさらなる展開が期待される本プロジェクト。海外プロジェクトの現地化にこだわるプロフェッショナルの果てしない挑戦は続いていく。

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